新NISAでS&P500に投資しようと商品一覧を開くと、eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)・楽天・プラス・S&P500インデックス・ファンド・SBI・V・S&P500インデックス・ファンドという、名前の似た3本が並んでいます。中身はどれも同じS&P500。それなら信託報酬がいちばん安いものを選べばいいはずですが、実際に比べてみると「表示されている信託報酬が最安の商品」と「50代が持ったときに実際の負担がいちばん軽い組み合わせ」は一致しないことがあります。この記事では、総経費率(実質コスト)と保有残高に応じたポイント還元まで含めて、3本を1つずつほどいていきます。



📑 目次
結論:3本のコスト差はほぼ決着。決め手は「どこで持つか」
先に結論をお伝えします。eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)と楽天・プラス・S&P500の総経費率は、いずれも年0.09%前後でほぼ横並びです。SBI・V・S&P500がわずかに高い年0.10%前後ですが、その差は年0.01%程度。1,000万円を1年持って年1,000円ほどの違いにしかなりません。「どれを選んでも大きく損はしない」ところまで各社が値下げ競争を終えている、というのが2026年時点の実像です。
むしろ差が出るのは「どの証券会社で持つか」です。保有しているだけで付与される投信残高ポイントは、対象銘柄も付与率も証券会社ごとに違います。同じeMAXIS Slim 米国株式(S&P500)でも、SBI証券で持てば年0.028%相当のポイントが戻り、楽天証券で持つとポイント付与の対象外――このひと手間の差が、実はファンド間のコスト差より大きいのです。
※2026年8月時点で確認できた情報を基にした目安です。信託報酬・総経費率・純資産総額は随時変動します。
3本の正体|同じS&P500でも連動のさせ方が違う
eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)=残高で圧倒する定番
三菱UFJアセットマネジメントが2018年7月に設定した、日本で最も残高の大きいS&P500ファンドです。純資産総額は2026年1月時点で9兆円台とされ、国内の投資信託でも最大級。「業界最低水準の運用コストを将来にわたって目指す」という方針を掲げており、他社が値下げすると追随して引き下げてきた実績があります。信託報酬は2025年1月に年0.08140%以内(税込)へ引き下げられました。
実際に50代の方がこのファンドを積み立て続けるとどうなるかは、当ブログのeMAXIS Slim S&P500を実際に積み立てた全記録で数字を公開しています。あわせてご覧ください。
楽天・プラス・S&P500=表示上の信託報酬が最安
楽天投信投資顧問が2023年10月に設定した比較的新しいファンドで、信託報酬は年0.077%(税込)。表示されている数字だけを見れば3本の中で最も低い水準です。楽天証券が自社グループの「楽天・プラス」シリーズとして力を入れており、後述する残高ポイントの対象にもなっています。
ただし設定から日が浅いぶん、純資産総額は2025年7月時点で6,000億円台と、eMAXIS Slimとは1桁以上の開きがあります。信託報酬の安さは「これから残高が集まる前提」で設定されている面もあることは、頭の片隅に置いておきたいところです。
SBI・V・S&P500=米国ETF「VOO」を通じて投資する
3本の中で唯一、運用の仕組みが違うのがこのファンドです。日本の運用会社が自分でS&P500の500銘柄を買い集めるのではなく、米国に上場している超巨大ETF「VOO」(バンガード・S&P500 ETF)を通じて間接的に投資する構造になっています。信託報酬は年0.0938%程度で、これにはVOO自身の経費率も織り込まれています。
- マザーファンド方式(eMAXIS Slim・楽天・プラス)=日本の運用会社が現物株を直接保有。指数との誤差(トラッキングエラー)を自社でコントロールしやすい
- ETF経由方式(SBI・V)=すでに完成された巨大ETFに乗る。運用の実績が長く、規模の経済が効いている
- どちらが優れているという話ではなく、どちらもS&P500への連動を目指す点は同じ。長期のリターン差は誤差の範囲に収まることが多い
信託報酬 vs 総経費率|隠れコストを入れると順位はこう変わる
目論見書の信託報酬は「予定額」にすぎない
ここが本題です。投資信託の商品ページに大きく書かれている信託報酬は、運用会社・販売会社・信託銀行に払う報酬の合計であって、それがコストの全部ではありません。実際にはこれ以外にも、株式の売買委託手数料、海外の証券を保管してもらう費用、監査費用、指数を使わせてもらうライセンス料などが差し引かれています。これらは事前に確定できないため目論見書には「その他の費用・手数料」としか書けず、実際にいくらかかったかは決算後の運用報告書を見るまで分からないのです。
この「実際にかかった費用の合計」を純資産で割った比率が総経費率(実質コスト)です。投資信託協会の公式サイトでも、費用の内訳と運用報告書の読み方が図解付きで説明されていますので、一度目を通しておくと数字の意味がつかみやすくなります。
実際に比べると「最安争いは事実上の同着」
報道や各ファンドの運用報告書ベースで見ると、楽天・プラス・S&P500の総経費率は約0.09%で、S&P500連動の投資信託の中でも最も低い水準とされています。一方のeMAXIS Slim 米国株式(S&P500)も総経費率は約0.09%で、両者はほぼ並んでいます。信託報酬では0.077%対0.08140%と楽天が0.004%リードして見えるのに、その他費用まで含めるとその差はほぼ消えるわけです。
SBI・V・S&P500は総経費率が約0.10%前後で、この2本よりわずかに高い位置。ただし差は年0.01%=100万円あたり年100円です。この差を理由に商品を選び直す価値があるかは、正直なところ微妙なラインだと言えます。手数料の全体像をもう少し広く押さえたい方は、投資の「手数料・コスト」完全ガイドもあわせてどうぞ。
- 運用会社の公式サイトでファンドのページを開き、「交付運用報告書」のPDFを探す
- 「1万口当たりの費用明細」という表を見る。信託報酬・売買委託手数料・有価証券取引税・保管費用などが並んでいる
- いちばん下の合計の「比率」欄が、その決算期の実質的な負担率。これが総経費率にあたる
残高ポイントまで入れた「手取りコスト」で比べる
持っているだけで戻ってくるポイントを差し引く
ネット証券各社は、投資信託の保有残高に応じて毎月ポイントを付与するサービスを用意しています。SBI証券の「投信マイレージ」、楽天証券の「投信残高ポイントプログラム」がその代表です。これは実質的なコストの割戻しですから、コストを比べるなら当然この分を差し引いて考えるべきです。
2026年8月時点で確認できる付与率の目安は次のとおりです。SBI証券でeMAXIS Slim 米国株式(S&P500)を保有した場合は年0.028%(かつては年0.0326%でしたが引き下げられました)。同じくSBI証券でSBI・V・S&P500を持つと年0.022%。楽天証券で楽天・プラス・S&P500を持つと年0.028%です。
ここで重要なのが、楽天証券の投信残高ポイントプログラムは「楽天・プラス」シリーズだけが対象だという点です。つまり楽天証券でeMAXIS Slim 米国株式(S&P500)を買っても、残高ポイントは付きません。対してSBI証券の投信マイレージは幅広い銘柄が対象になっています。
※2026年8月時点の目安。ポイント付与率・対象銘柄は各社の判断で改定されます。ポイントの使い道により実質的な価値は変わります。
同じ商品でも「持つ場所」で年0.028%変わる
図2のとおり、総経費率からポイント分を引くと、eMAXIS Slim×SBI証券と楽天・プラス×楽天証券がともに約0.062%で並び、SBI・V×SBI証券が約0.078%と続きます。そして最も不利になるのがeMAXIS Slim×楽天証券の約0.090%。つまり「良いファンドを選んだのに、置き場所を間違えて年0.028%を捨てている」状態が起こり得るわけです。
※残高1,000万円が20年間一定と仮定した単純計算です。実際は基準価額の変動で残高が動くため金額は変わります。将来のコスト・ポイント付与率を保証するものではありません。
1,000万円を20年間持ち続けたと仮定すると、最も軽い組み合わせで累計約12.4万円、最も重い組み合わせで約18.0万円。差はおよそ5.6万円です。20年で5万円台と聞くと「思ったほど大きくないな」と感じる方が多いのではないでしょうか。その感覚は正しくて、コストの差より、積立をやめないことの方が結果への影響はずっと大きいのが実際のところです。

純資産総額と繰上償還リスク|もう一つの判断軸
コストの次に50代が見ておきたいのが純資産総額です。投資信託は残高が小さすぎると運用が非効率になり、最悪の場合繰上償還――つまり運用が途中で打ち切られ、その時点の時価で強制的に現金化されることがあります。
ここが50代にとって地味に重要です。新NISA口座で繰上償還されると、使ってしまった非課税枠はその年内には戻りません。売却した分の枠は翌年に復活しますが、その1年をロスすることになります(枠の復活ルールは新NISAの非課税枠は売ったら復活する?で詳しく整理しています)。20代なら取り返せるロスでも、60歳・65歳という現実的なゴールが見えている50代にとって、1年は決して軽くありません。
その意味で、純資産9兆円台のeMAXIS Slim 米国株式(S&P500)と2兆円台のSBI・V・S&P500は、繰上償還の心配をほぼしなくてよい規模に達しています。楽天・プラス・S&P500も6,000億円台と十分な規模ですが、設定から日が浅いぶん残高が順調に伸び続けているかを年に一度は確認しておくと安心です。
すでに持っている人は乗り換えるべきか
NISA口座なら「原則そのまま」でいい
すでにどれかを積み立てている方が「もっと安い方に乗り換えるべきか」と考えるのは自然です。しかしNISA口座での乗り換えは、多くの場合おすすめしません。理由は単純で、売って買い直すとその年の非課税投資枠を二重に消費してしまうからです。年間360万円という枠は、50代にとって決して余裕のある数字ではありません。
年0.01〜0.03%のコスト差を取りに行くために、貴重な非課税枠を1年分削るのは割に合いません。これから積み立てる分だけを有利な組み合わせに切り替え、すでに買った分はそのまま置いておく――これが現実的な落としどころです。
証券会社ごと変えたいときは「金融機関変更」の手続き
「持ち場所を変えたい」場合は、商品の売買ではなくNISA口座そのものの金融機関変更という手続きになります。年単位でしか変更できず、その年にすでに買い付けをしていると当年分は変更できないなど制約があるため、手順は新NISA口座の金融機関変更ガイドで確認してから動いてください。なお、これまでに積み立てた資産は元の証券会社に残ったままになります。
50代はどれを選ぶ?3つの質問で決める
- SBI証券がメイン → eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)。残高ポイントの対象で、純資産も最大級。迷ったらこれ
- 楽天証券がメイン → 楽天・プラス・S&P500。楽天証券で残高ポイントが付くのは「楽天・プラス」シリーズだけ
- これから口座を開く → クレカ積立のポイント還元も含めて決める(クレカ積立比較参照)
残高ポイントは、使わなければ価値になりません。楽天ポイントを普段の買い物で消化している方、VポイントやPontaポイントを使う習慣がある方には効きますが、「ポイントは貯まっても放置」というタイプの方は、この項目を無理に重視しなくて構いません。その場合は素直に総経費率が低く純資産の大きいファンドを選べば十分です。
実はこれが最も大事な質問です。3本のどれを選ぶかより、米国株100%でいくのか、オルカン(全世界株)や債券を混ぜるのかの方が、50代の資産の振れ幅にはるかに大きく効きます。判断材料はオルカンとS&P500、50代が選ぶならどっち?と新NISAはオルカン1本でいい?にまとめています。
買う前に確認したい3つの注意点
①「S&P500だから安心」ではない
S&P500は米国を代表する約500社で構成されますが、近年は上位数社の比率が高まっており、実態としては大型テック企業の値動きに強く引っ張られます。過去に何度も30〜50%規模の下落を経験してきた指数でもあり、50代がその局面を迎えたときに耐えられる金額かどうかは、買う前に一度考えておきたいところです。暴落時の身の処し方は暴落時の対応マニュアルで整理しています。
②円で買えても為替リスクは消えない
3本とも日本円で買えますが、中身は米ドル建ての米国株です。ドルベースで上がっていても、円高に振れれば円換算の評価額は目減りします。「円で買えるから為替は関係ない」という誤解は根強いので注意してください。為替との付き合い方は為替ヘッジ「あり」vs「なし」で扱っています。
③コストもポイントも「今の数字」でしかない
信託報酬は各社の競争で下がることもあれば、残高ポイントの付与率は引き下げられることもあります。実際、SBI証券のeMAXIS Slim 米国株式(S&P500)に対する付与率は年0.0326%から年0.028%へ引き下げられました。今日いちばん有利な組み合わせが、5年後も有利とは限りません。年に一度、公式サイトで数字を確認する習慣をつけておけば十分です。
なお、インデックス投資の考え方そのものを腰を据えて学び直したい方には、山崎元氏・水瀬ケンイチ氏の『全面改訂 第3版 ほったらかし投資術』が定番の一冊です。「どのファンドが0.001%安いか」より大事なことが何かを、はっきり示してくれます。また、制度そのものの一次情報は金融庁のNISA特設ウェブサイトで確認できます。

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まとめ:コストで悩む時間の方がもったいない
- 総経費率はeMAXIS Slimと楽天・プラスが約0.09%で同着、SBI・Vが約0.10%。差は年0.01%程度
- 信託報酬は「予定額」、実際の負担は総経費率。運用報告書の「1万口当たりの費用明細」で確認できる
- 残高ポイントを引いた手取りコストで見ると順位が動く。eMAXIS Slim×SBI証券/楽天・プラス×楽天証券が約0.062%で有利
- 楽天証券の残高ポイントは「楽天・プラス」シリーズ限定。楽天証券でeMAXIS Slimを持つと年0.028%を取り逃がす
- 1,000万円×20年でも差は約5.6万円。積立を止めないことの方が結果への影響は大きい
- NISA口座で乗り換えると非課税枠を二重消費する。切り替えるのは「これから積み立てる分」だけでよい
- 純資産総額も確認を。繰上償還されると非課税枠の復活は翌年で、50代には痛い1年になる
3本を並べて分かるのは、「どれを選んでも大差はないところまで、各社の競争が進んでいる」という事実です。だからこそ、比較サイトを何週間も見比べる時間があるなら、まずはすでに口座を持っている証券会社で、対応するファンドを月1万円からでも積み立て始める方がずっと建設的です。50代に残された時間は20代ほど潤沢ではありませんが、20年という単位で見ればまだ十分に長い。まずは1本、動かしてみるところから。一緒にコツコツやっていきましょう!
※本記事は2026年8月時点で公開されている情報を基にした一般的な情報提供であり、特定の金融商品の購入を推奨するものではありません。記事中の信託報酬・総経費率・純資産総額・ポイント付与率はすべて説明のための目安であり、運用会社・証券会社の判断により変更される可能性があります。累計コストの試算は残高が一定と仮定した単純計算であり、将来の成果を示すものではありません。投資信託は元本が保証されず、価格変動および為替変動により損失が生じる場合があります。税制やNISA制度の取り扱いはご自身の状況により異なります。投資判断は必ず目論見書・運用報告書・各社公式サイトの最新情報をご確認のうえ、ご自身の判断と責任で行ってください。








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