「60歳を過ぎても働き続けると、年金が減らされるらしい」——そんな話を聞いて、定年後の働き方に不安を感じている50代の方は多いのではないでしょうか。この「働くと年金が減る」仕組みが在職老齢年金です。実はこの制度が2026年4月に大きく改正され、年金がカットされる基準額が月51万円から65万円へ引き上げられました。本記事では、50代が今のうちに知っておきたい在職老齢年金の仕組みと2026年改正のポイントを、図解と計算例でやさしく整理します。



📑 目次
結論:2026年4月から「働きながら年金」がもらいやすくなった
まず結論からお伝えします。2026年4月の改正で、在職老齢年金は次の3点が大きく変わりました。
- ① 年金カットの基準額が51万円→65万円へ大幅引き上げ:給与と年金の合計が月65万円を超えなければ、年金は全額もらえる
- ② カットされるのは「老齢厚生年金」だけ:老齢基礎年金(国民年金部分)は減額されず全額支給される
- ③ 多くの会社員は「働き控え」を気にしなくてよくなった:月65万円という基準は、かなり高収入でない限り超えにくい
つまり、「働くと年金が減るから、あえてセーブする」という発想は、2026年以降ほとんどの人にとって不要になります。50代の今からこの仕組みを理解しておけば、定年後の働き方と年金の受け取り方を前向きに設計できるのです。順番に図解で見ていきましょう。
在職老齢年金とは?仕組みをやさしく整理
在職老齢年金とは、厚生年金に加入しながら(=会社員として働きながら)老齢厚生年金を受け取る場合に、給与と年金の合計額に応じて年金の一部または全部が支給停止される仕組みです。主に60代以降、年金をもらいながら働く人が対象になります。
ポイントは、対象になるのが老齢厚生年金(報酬比例部分)だけだということ。会社員時代に積み上げた厚生年金の上乗せ部分が調整の対象で、誰もが受け取る老齢基礎年金(国民年金部分)はカットされず全額支給されます。また、新NISAやiDeCoで作った資産、預貯金、不動産収入などは在職老齢年金の計算には一切関係ありません。
- 対象(カットされうる):老齢厚生年金の報酬比例部分
- 対象外(全額もらえる):老齢基礎年金、新NISAの資産、iDeCoの受取金、預貯金、不動産・配当収入など
- 判定に使うのは「給与+賞与(月割り)+厚生年金」の合計:自営業やフリーランスで厚生年金に加入していない働き方なら、そもそも調整の対象外

2026年4月改正のポイント:基準額51万円→65万円
2026年4月の改正で最も大きいのが、支給停止の基準額(支給停止調整額)の引き上げです。2025年度(令和7年度)の月51万円から、2026年度(令和8年度)は月65万円へと大幅に引き上げられました。
※2026年4月施行(令和8年度)。法律改正時の額は62万円ですが、賃金スライドにより2026年度の実際の基準額は65万円です。今後も毎年度見直されます。
この改正の背景にあるのは「働き控え」の解消です。これまでは「これ以上働くと年金が減ってしまう」と考えて、あえて労働時間や収入をセーブする高齢者が一定数いました。人手不足が深刻化するなか、意欲ある高齢者がもっと働きやすい環境を整えるために、政府は基準額を引き上げたのです。厚生労働省の「在職老齢年金制度の見直し」ページでも、その狙いが説明されています。
月65万円という基準は、給与(賞与の月割りを含む)と厚生年金の合計です。たとえば老齢厚生年金が月10万円の人なら、給与が月55万円までは年金が全額もらえる計算になります。多くの会社員の再雇用・継続雇用の給与水準を考えれば、年金カットを気にせず働けるケースが大幅に増えるといえるでしょう。
自分の年金はいくら止まる?計算例で見る
在職老齢年金で支給停止される金額(月額)は、次のシンプルな式で計算します。
(基本月額 + 総報酬月額相当額 - 基準額)÷ 2
・基本月額=老齢厚生年金の月額(加給年金等を除く)
・総報酬月額相当額=その月の給与(標準報酬月額)+直近1年の賞与÷12
・基準額=2026年度は65万円
※計算結果がマイナスなら支給停止は0円(年金は全額支給)
具体的に、老齢厚生年金が月10万円の人で、給与水準が違う3つのケースを改正前(基準額51万円)と改正後(基準額65万円)で比べてみましょう。
※老齢厚生年金の月額を10万円と仮定した概算。老齢基礎年金は対象外で全額支給。実際の金額は個人の年金額・賃金で異なります。
合計56万円(年金10万+給与46万)のケースでは、改正前は毎月2.5万円カットされていましたが、改正後は合計が65万円以下なのでカット0円。合計62万円のケースも、改正前は5.5万円カットが改正後は0円になります。合計70万円とかなり高収入のケースでも、カット額は改正前の9.5万円から改正後は2.5万円へと大きく縮小します。
このように、給与と年金の合計が月65万円を超えなければ、年金は1円も減りません。再雇用で給与が下がる人が多い60代前半では、ほとんどのケースで年金が満額もらえると考えてよいでしょう。
※制度の概要を簡略化した整理です。適用要件・例外は日本年金機構等の公式情報をご確認ください。

50代が「今」知っておくべき3つの理由
「在職老齢年金は60代の話でしょ?」と思うかもしれません。しかし、50代の今こそ知っておく意味があるのです。理由は3つあります。
① 定年後の「働き方」を逆算して設計できる
再雇用で月いくら稼ぐと年金がどうなるのか——その仕組みを50代のうちに理解しておけば、定年後のキャリアプランを落ち着いて設計できます。2026年改正で基準額が65万円に上がったことで、「年金カットを避けるために働き方をセーブする」必要はほぼなくなりました。むしろ、働けるうちは働いて収入を確保し、年金は将来のために繰下げる、といった前向きな選択もしやすくなっています。繰下げ受給の損得については公的年金の繰下げ受給は得か損かの記事でも詳しく解説しています。
② 自分の年金見込み額を早めに把握できる
在職老齢年金でカットされるかどうかは、自分の老齢厚生年金の月額(基本月額)がわからないと判断できません。50代になったら、日本年金機構の「ねんきんネット」や毎年届く「ねんきん定期便」で、将来の年金見込み額を一度確認しておきましょう。早めに把握しておけば、不足分を新NISAやiDeCoで補う計画も立てやすくなります。
③ 「年金だけに頼らない」自分年金づくりを始められる
在職老齢年金の改正は朗報ですが、公的年金が物価上昇に完全には追いつかない可能性は残ります。だからこそ、50代のうちから新NISAやiDeCoで「自分年金」を育てておくことが、老後の安心につながります。在職老齢年金の対象外である新NISA・iDeCoの資産は、いくら積み上げても年金カットの対象になりません。この点も、投資で備える大きなメリットです。
在職老齢年金と新NISA・iDeCoの賢い組み合わせ方
ここからは、在職老齢年金の仕組みを踏まえた「働く×年金×投資」の組み立て方を整理します。
① 働く期間は新NISA・iDeCoで積立を継続
60代も働いて収入があるうちは、生活費を給与でまかないつつ、新NISAやiDeCoへの積立を続けるのが王道です。先ほど触れたとおり、新NISA・iDeCoの資産は在職老齢年金のカット対象外。安心して長期運用に回せます。iDeCoは掛金が全額所得控除になるため、働いて収入があるうちは節税メリットも大きいのが魅力です。
② 公的年金は「繰下げ」で増やす選択肢も
働いて収入があるうちは公的年金を受け取らず、繰下げ受給で年金額を増やすのも有力な選択肢です。年金を65歳から最大75歳まで繰下げると、1か月あたり0.7%、最大84%増額されます。在職老齢年金でカットされる心配が小さくなった今、「働けるうちは働き、年金は繰下げて将来厚くする」という戦略が取りやすくなりました。
③ 受け取る資産は新NISAで運用しながら取り崩す
退職金や将来受け取る年金・iDeCo一時金は、すべてを預金で寝かせるとインフレで実質的に目減りします。すぐ使わない分は、新NISAの非課税枠を使って運用しながら少しずつ取り崩すのが、長生き時代の資産寿命を延ばすコツです。運用には、低コストの投資信託が豊富で手数料の安いネット証券が向いています。
④ 制度の判断に迷ったら専門家に相談する
「自分は年金がカットされるのか」「繰下げと在職老齢年金、どう組み合わせるのが得か」——こうした判断は、年金見込み額・退職後の働き方・家計全体が絡む複雑なテーマです。判断に迷う場合は、無料のFP相談で全体像を整理してもらうと安心です。
⑤ まず体系的に学びたいなら入門書から
年金・退職金・税金の全体像を一冊で押さえたい人は、図解の入門書から入るのが効率的です。たとえば『知らないと大損する! 定年前後のお金の正解 改訂版』(板倉京)は、在職老齢年金や年金の受け取り方、手取りを増やすコツが具体的に整理されており、定年が近づく50代の最初の1冊に向いています。
参考になる一次情報
- 厚生労働省「在職老齢年金制度の見直しについて」:改正の公式情報
- 日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」:基本月額・総報酬月額相当額の定義と計算式
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まとめ:制度を味方につけて「働く×年金×投資」を設計する
- 在職老齢年金は「働きながら老齢厚生年金を受け取ると一部が支給停止される」仕組み
- 2026年4月改正で、支給停止の基準額が月51万円→65万円へ大幅引き上げ
- カット対象は老齢厚生年金のみ。老齢基礎年金・新NISA・iDeCoの資産は対象外で減らない
- 給与+年金の合計が月65万円以下なら年金は全額もらえる。多くの会社員は働き控え不要に
- 50代のうちにねんきんネット等で年金見込み額を確認し、不足分は新NISA・iDeCoで備える
- 「働けるうちは働き、年金は繰下げて増やす」戦略が取りやすくなった
2026年の改正で、在職老齢年金は「働くと損をする制度」から「働きやすさを後押しする制度」へと一歩前進しました。とはいえ、公的年金だけで老後を安心して過ごせるとは限りません。だからこそ、制度を正しく理解したうえで、新NISAやiDeCoで「自分年金」を育てておくことが大切です。働く・もらう・増やすの3つをバランスよく設計して、一緒にコツコツやっていきましょう!
※本記事は2026年6月時点の公開情報・制度を基にした一般的な情報提供であり、特定の手続きや投資手法を推奨するものではありません。年金制度は改正される可能性があり、支給停止調整額は年度ごとに見直されます。個別の年金額・支給停止額の試算や具体的な判断は、日本年金機構・社会保険労務士・FP等の専門家にご相談のうえ、最新の公式情報をご確認ください。投資には元本割れのリスクがあります。








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