「オルカンを買えばいい」——これはもう合言葉のようになりました。ところが実際に証券会社の検索窓に「オールカントリー」と打ち込むと、よく似た名前のファンドが何本も並びます。eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)、楽天・プラス・オールカントリー株式インデックス・ファンド、Tracers MSCIオール・カントリー・インデックス(全世界株式)。連動する指数はどれも同じMSCI ACWIで、信託報酬は小数点以下4桁で争っている状態です。50代の限られた時間で、この3本をどう選び分ければいいのか。数字を並べて、正直なところまで書きます。



📑 目次
結論:信託報酬の差は「誤差」。50代が見るべき指標は3つだけ
先に結論からお伝えします。
- 3本とも同じ「MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックス」に連動する。中身の株式は実質的に同じで、値動きもほぼ一致する
- 信託報酬の差は年0.002%未満。1,000万円を1年持って年間200円に満たない差で、これは誤差の範囲
- 効いてくるのは信託報酬ではなく実質コスト。売買委託手数料や保管費用まで含めた総経費率で見ると、年0.01%(=信託報酬差の約6倍)の差がつくことがある
- もっと効くのが「投信保有ポイント」。証券会社によっては年0.01〜0.05%程度のポイントが付き、信託報酬の差を丸ごとひっくり返す
- 50代の実務的な結論:メインで使っている証券会社で買えるものを1本選び、あとは触らない。楽天証券なら楽天・プラス、それ以外ならeMAXIS Slim、が最もシンプル
「なんだ、それだけか」と思われたかもしれません。ですがこの結論には、数字で確かめないと腹落ちしないという性質があります。「0.002%の差なんて誤差」と言葉で言われても、なんとなく安いほうが得な気がして踏み切れない。だから以下では、その「気がする」を金額に変換していきます。
大前提:3本は同じ指数に連動する「ほぼ同じ商品」
比較の前に、ここを外すと話が噛み合いません。今回の3本はすべて同じベンチマークを採用しています。
連動対象はMSCI ACWI(配当込み・円換算ベース)
MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックスは、日本を含む先進国と新興国の株式をまとめて捉える指数です。おおむね世界の投資可能な株式時価総額の85%程度をカバーする設計で、いわゆる「全世界株式」の代表格。米国が構成比の6割前後を占めるため、実際の値動きはS&P500と強く連動します。
指数の中身や算出方法については、投資信託協会の公式サイトでも投資信託の基本的な仕組みが図解付きで解説されています。「インデックスファンドとは何か」から確認したい方は、一次情報にあたっておくと安心です。


「名前が似ているだけの別物」に注意
ひとつだけ、選ぶ前に潰しておきたい落とし穴があります。証券会社の検索で「オールカントリー」と入れると、為替ヘッジありのタイプ、日本除くタイプ、毎月分配型など、方向性の違う商品も混ざって出てきます。今回比較する3本はいずれも為替ヘッジなし・日本含む・分配金再投資型です。積立設定の直前に、目論見書のベンチマーク名を1行だけ確認する習慣をつけてください。為替ヘッジの考え方については50代の新NISA、為替ヘッジ「あり」vs「なし」どっちを選ぶ?で整理しています。
信託報酬より実質コスト|どこで差が生まれるのか
では本題のコストです。まず、目論見書に書かれている信託報酬を並べます。
※信託報酬は税込・年率。実質コストは運用報告書の決算期ごとに変動する概算値です。
信託報酬(年率・税込)の実額
- eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー):年0.05775%
- 楽天・プラス・オールカントリー株式インデックス・ファンド:年0.0561%
- Tracers MSCIオール・カントリー・インデックス(全世界株式):年0.05775%
※信託報酬は各運用会社の判断で引き下げられることがあります(実際にこの3本は過去に引き下げ競争を繰り返しています)。最新値は必ず目論見書でご確認ください。
最安の楽天・プラスと、他2本との差は年0.00165%。1,000万円を1年間持ち続けて165円です。缶コーヒー1本分と少し、と言えばイメージが湧くでしょうか。
本当に効くのは「実質コスト(総経費率)」
信託報酬は「事前に約束された取り分」ですが、投資信託にはそれ以外にも運用の過程で発生する費用があります。株式を売買したときの委託手数料、海外の株を保管してもらう費用、監査費用などです。これらを合計して残高で割ったものが実質コスト(総経費率)で、決算のたびに運用報告書で開示されます。
この実質コストは、3本ともおおむね年0.10〜0.12%程度のレンジに入るのが実情です。つまり信託報酬の2倍前後が実際の負担になっている、ということ。そして重要なのは、この実質コストの差(0.01%単位)のほうが、信託報酬の差(0.001%単位)より一桁大きいという点です。
- ①目論見書の信託報酬だけで比べない。事前公表値は「最低ライン」であって、実際の支払いではない
- ②実質コストは運用報告書で確認する。設定から日が浅いファンドは初回決算の数字が高めに出やすく、期を重ねるほど下がる傾向がある
- ③純資産が増えるほど実質コストは下がりやすい。固定的な費用を大きな残高で割るため。規模の大きさはそのままコスト優位につながる
実際、楽天・プラス・オールカントリーは設定初期の決算では実質コストが年0.19%台と高めに出ましたが、2期目には0.11%台まで低下しています(同社の運用報告書ベース)。新しいファンドの数字を見るときは「何期目の数字か」まで見る、というのが実務上のコツです。
1,000万円を20年持ったら、いくら違うのか
では、差を金額に変換します。50代が退職金や既存の資産を含めて1,000万円を全世界株式に置き、20年運用したと仮定した単純試算です。
※毎年末に残高×コスト率を差し引き、年5%で再投資した前提の概算。運用成果を保証するものではありません。
信託報酬の差=20年で約5,000円
年0.05775%と年0.0561%を比べると、20年で支払うコストの累計は約19.0万円 vs 約18.4万円。差は約5,400円です。20年で5,400円、年あたり270円。これを「小さくない」と感じる方はほとんどいないでしょう。
実質コストの差=20年で約3.2万円
一方、実質コストが年0.11%のファンドと年0.12%のファンドを比べると、20年の累計は約35.9万円 vs 約39.2万円で、差は約3.2万円。信託報酬の差の6倍です。


見落としがちな決定打|投信保有ポイントと取扱証券会社
ここからが実際の選択に効く部分です。コスト差が誤差なら、何が決め手になるのか。答えは「証券会社側の事情」です。
①そもそも買えない組み合わせがある
いちばん大きいのがこれです。楽天・プラス・オールカントリー株式インデックス・ファンドは、楽天証券が販売の中心となるシリーズで、他社では取り扱いがないのが基本です。逆にeMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)は主要ネット証券のほぼどこでも買える定番。Tracersシリーズも取扱会社は広がってきていますが、eMAXIS Slimほどではありません。
つまり「SBI証券がメインの人が楽天・プラスを買いたい」となると、そのためだけに楽天証券に口座を開く必要があります。20年で5,400円のために口座を増やす——これは割に合いません。
②投信保有ポイントが信託報酬差を吸収する
各証券会社は、投資信託の残高に応じてポイントを付与しています。この付与率は年0.01〜0.05%程度とファンドや会社によってまちまちですが、信託報酬の差(0.00165%)より一桁以上大きいのが普通です。
- 楽天証券では、楽天・プラスシリーズが投信残高ポイントの対象になっている一方、eMAXIS Slimなど一部の低コストファンドは対象外・低率という設計が取られてきた
- SBI証券・松井証券・マネックス証券にも同様の残高ポイントプログラムがあり、対象ファンド・付与率は各社で異なる
- 付与率はキャンペーンや制度改定で頻繁に変わる。「今の付与率」を根拠に20年の商品を決めるのは危険
※ポイント付与の条件・対象ファンド・付与率は各社の判断で予告なく変更されます。必ず各社の公式ページで最新条件をご確認ください。
各社の保有ポイントを金額ベースで比べた詳細は、投信の保有ポイントはどこが得?松井証券 vs SBI証券 vs 楽天証券にまとめています。1,000万円規模で置くなら、こちらのほうが商品選びより効いてきます。
③図解:結局どう選ぶか
※特定商品の購入を推奨するものではありません。取扱商品・ポイント条件は変更されます。
身も蓋もない言い方をすれば、「今の証券口座で買えるほうを選ぶ」で9割は正解です。残りの1割は、これから口座を開く人が「どの証券会社にするか」を先に決める、という話に置き換わります。証券会社選びそのものは楽天証券 vs SBI証券|50代の新NISAで選ぶなら結局どっち?で比較しています。
純資産総額と繰上償還リスク|50代ほど効いてくる論点
コストの次に見ておきたいのが純資産総額です。地味ですが、50代にとってはコストより重要かもしれません。
なぜ規模を見るのか
- ①繰上償還リスクが小さい。残高が細ると運用会社が途中でファンドを終了(繰上償還)することがある。そうなると意図しないタイミングで現金化され、新NISAの非課税枠も使ったままになる
- ②実質コストが下がりやすい。監査費用など固定的な費用を大きな残高で割れるため
- ③指数への追随精度が安定しやすい。資金の出入りに対して機動的に対応できる
2026年時点で、eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)の純資産は他を大きく引き離しており、楽天・プラス・オールカントリーはその1割程度の規模とされています(各社の月次レポートベース)。Tracersはさらに小さい水準です。
ただし誤解のないように補足すると、楽天・プラスもTracersも「小さすぎて危ない」水準ではありません。すでに数千億円規模に育っており、繰上償還が現実的に議論されるレベルではないというのが率直な評価です。それでも「20年後に自分が取り崩すとき、確実にそこにある商品か」を気にするなら、最大手を選ぶのが最も保守的ではあります。

すでに持っている人は乗り換えるべき?新NISAの枠を使う重さ
「もうオルカンを積み立てているけど、もっと安いのが出たなら乗り換えたほうがいい?」——これは非常によくある質問です。結論から言うと、新NISA口座内での乗り換えは基本的におすすめしません。
非課税枠は「買った瞬間」に消費される
新NISAの年間投資枠は、売却してもその年のうちには復活しません。翌年になって、売却した分の簿価(取得価額)に相当する枠が戻る仕組みです。つまり乗り換えのために売って買い直すと、その年の枠を二重に使ってしまうことになります。
- 新NISA口座で保有中:原則そのままキープ。年0.00165%の差のために枠を消費するのは明確に損
- これから積み立てる分だけ変える:これはアリ。既存分は放置し、新規の積立設定だけ別ファンドに切り替えるのが最もコストの低い方法
- 特定口座で保有中:売却時に約20.315%の税金がかかる。含み益が出ているなら、税負担のほうがコスト差を大幅に上回る
- ただし「証券会社そのものを変えたい」場合は別問題。この場合は金融機関変更の手続きになる
枠の再利用ルールの詳細は新NISAの非課税枠は売ったら復活する?「枠の再利用」ルールと簿価ベースの仕組みで、金融機関そのものを変える手順は新NISA口座の金融機関変更ガイドで解説しています。
「同じ資産を複数持つ」のは避ける
もうひとつ、実務的な注意点を。eMAXIS Slimオルカンと楽天・プラス・オールカントリーを両方持っても、分散にはなりません。中身が同じだからです。むしろ管理する銘柄が増えるだけで、取り崩しのときに手間が倍になります。50代の資産管理は、できるだけ本数を減らすのが鉄則です。この考え方は新NISAはオルカン1本でいい?「1本集中」vs「複数分散」で掘り下げています。
50代が特に気をつけたい落とし穴
①「信託報酬引き下げ」のニュースで動かない
この3本は過去に何度も信託報酬を引き下げてきました。ニュースが出るたびに乗り換えていたら、非課税枠と手間だけが消えていきます。引き下げは既存の保有者にもそのまま適用されるので、慌てて動く理由はありません。
②「実質コストが安い年」は続くとは限らない
実質コストは決算期ごとの実績値です。ある年に0.10%だったからといって、翌年も同じとは限りません。ある1期の数字だけを根拠に商品を入れ替えるのは、過剰反応です。
③50代は「株式100%でいいのか」を先に考える
これが最も大切です。オルカン系3本の選択に悩む前に、そもそも全世界株式に何割を置くべきかのほうが、20年後の残高にはるかに大きく影響します。60代前半での取り崩し開始が視野に入る50代なら、債券や現金とのバランスを先に決めるべきです。50代の資産配分(アセットアロケーション)完全ガイドで、リスク許容度から逆算する方法を整理しています。
④分配金なしを不安がらない
3本とも分配金を出さずに再投資する方針です。「配当が入らないと実感がない」と感じる方もいますが、分配金を出さないほうが課税の繰り延べ効果が働き、長期では有利に働きやすいのが一般的な整理です。配当が欲しい場合は、高配当ETFなど別の商品を組み合わせるほうが筋が通ります。
オルカン系3本の選択は「勝ち負けを決める場面」ではなく、できるだけ早く1本に決めて次に進むための作業です。証券会社が決まっているなら、そこで買えるものを選べば終わり。まだ口座がないなら、商品ではなく証券会社から先に決めるのが正しい順番です。
なお、全世界株式ではなく米国株の個別銘柄まで踏み込みたい場合は、銘柄分析ツールが充実した証券会社を選ぶという考え方もあります。
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まとめ:3本の差より「始めた日」のほうが効く
- eMAXIS Slim・楽天プラス・Tracersの3本は同じMSCI ACWIに連動。中身も値動きもほぼ同じで、「乗り換えるほどの差」は存在しない
- 信託報酬の差は年0.00165%。1,000万円・20年で約5,400円と、実質的に誤差の範囲
- 実質コスト(総経費率)は年0.10〜0.12%程度。信託報酬の約2倍が実際の負担で、こちらの差のほうが6倍大きい
- 投信保有ポイント(年0.01〜0.05%程度)が信託報酬差を丸ごと吸収する。商品より証券会社のほうが効く
- 楽天・プラスは楽天証券が中心、eMAXIS Slimはどこでも買える。取扱の有無が実質的な決定要因
- 純資産総額はeMAXIS Slimが圧倒的。繰上償還リスクを最小にしたいなら最大手が最も保守的
- 新NISA口座内での乗り換えは非課税枠を二重に消費するため非推奨。変えるなら「これからの積立設定だけ」
- 商品選びより先に、株式に何割置くかを決める。50代の残高を左右するのは配分のほう
比較記事を書いておいて言うのも変ですが、この3本の優劣を突き詰めても、50代の老後資金はほとんど変わりません。それより効くのは、積立を始めた日と、途中でやめなかった年数のほうです。「決めきれないから来月にしよう」で失う機会損失は、0.00165%どころではありません。今日、口座で買えるほうを1本選んで、設定を終わらせてしまいましょう。一緒にコツコツやっていきましょう!
商品比較の沼にはまる原因は、たいてい「全体の設計図がない」ことです。家計・保険・税金・投資の順番を先に押さえておくと、細かい差が気にならなくなります。
※本記事は2026年8月時点の各運用会社・各証券会社の公表情報を基にした一般的な情報提供であり、特定の投資信託・金融機関の利用を推奨するものではありません。信託報酬・実質コスト・純資産総額・投信保有ポイントの付与率および対象ファンド・各証券会社の取扱商品は、運用会社および各社の判断により予告なく変更されます。最新の情報は必ず目論見書・運用報告書および各社の公式サイトでご確認ください。本記事のシミュレーションは年5%の一定リターンを仮定した単純計算であり、将来の運用成果を示唆・保証するものではありません。投資信託は元本保証の商品ではなく、株価変動・為替変動により元本割れが生じる可能性があります。税制の取り扱いについては、必ず税務署または税理士等の専門家にご確認ください。最終的な投資判断はご自身の責任で行ってください。








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